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東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)1052号 判決

原告 株式会社東京相互銀行

右訴訟代理人弁護士 春田政義

被告 松本粂蔵

被告 高木武次郎

右両名訴訟代理人弁護士 小川誉

主文

一、被告らは各自原告に対し次の金銭を支払え。

1、金二、八三四、〇〇〇円および

2、内金一五七、三〇〇円に対する昭和四〇年二月一九日から、

3、内金一三一、〇〇〇円に対する昭和四〇年一月二一日から、

4、内金一六五、〇〇〇円に対する昭和三九年一二月二一日から、

5、内金二九五、四〇〇円に対する昭和三九年一二月二六日から、

6、内金二三二、六〇〇円に対する昭和三九年一一月二一日から、

7、内金二五三、〇〇〇円に対する昭和三九年一一月二六日から、

8、内金一七六、五〇〇円に対する昭和三九年一一月二一日から、

9、内金二八七、二〇〇円に対する昭和三九年一二月二四日から、

10、内金二三四、〇〇〇円に対する昭和四〇年一月二四日から、

11、内金一五四、〇〇〇円に対する昭和四〇年一月三一日から、

12、内金二一〇、〇〇〇円に対する昭和四〇年二月一日から、

13、内金二六五、〇〇〇円に対する昭和四〇年二月一九日から、

14、内金二七三、〇〇〇円に対する昭和四〇年三月一日から、

各完済まで金一〇〇円につき一日金五銭の割合の金銭。

二、訴訟費用は被告らの負担とする

三、この判決は、原告において各被告のためにそれぞれ金三〇万円の担保を供するときは、第一項中当該被告に対する部分に限り、かりに執行することができる。

四、但し、被告らにおいてそれぞれ金三〇万円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

一、当事者の求める裁判

(一)  原告(請求の趣旨)

主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

二、当事者の主張

(一)  原告

(請求原因)

(1) 昭和三九年五月二五日原告と訴外阿曽恒男との間で、同人はその振出、裏書、引受または保証にかかる約束手形および為替手形にして原告において取得したものについては、その原因の如何を問わず、手形債務を履行し、債務不履行の場合は日歩金五銭の割合による遅延損害金を支払う旨の約定を含む継続的手形取引契約が締結され、被告両名は同日右阿曽の債務について連帯保証をした。

(甲第一四号証)

(2) しかして原告は阿曽から拒絶証書作成義務免除のうえ別紙手形目録記載の約束手形一三通の裏書譲渡を受け、これらの手形を各満期に支払場所へ呈示したが、いずれも支払を得られなかった。

(3) よって原告は被告らに対し、各自右手形金およびこれに対する各呈示の翌日から支払済まで特約利率たる日歩金五銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

(抗弁事実の認否)

抗弁事実を否認する。

(二)  被告

(答弁)

請求原因(1)項のうち、原告と阿曽との間で原告主張の如き継続的手形取引契約が結ばれたことは認めるが、被告らが阿曽の債務につき連帯保証をしたとする点は否認する。

請求原因(2)項の事実は認める。

被告らは昭和三九年五月頃、阿曽から同人が原告との間で当座勘定取引をなすにつき、同人を原告に紹介する趣旨で保証人になって貰いたい旨懇請されたのでこれを諒承し、印章と印鑑証明書とを同人に交付したところ同人が右印章を勝手に使用し、被告ら不知の間に原告と阿曽との間の手形取引約定書(甲第一四号証)に連帯保証人として被告ら名義の記名捺印をなした上、右約定書を印鑑証明書と共に原告に差入れたのであって、被告らとしては原告主張の如き身元保証もただならぬ無限の責任を負担するような保証をしたことはない。

(仮定抗弁)

仮りに被告らが連帯保証をしたとしても既に被告らの債務は消滅した。

即ち、昭和四〇年一月二三日原告銀行向島支店において同支店管理係長訴外仁井繁と阿曽ならびに被告らが協議の結果、阿曽が爾後前記手形債務を分割して弁済することを確約したので、仁井は被告らに対してはもはや請求をしない旨言明した。つまり原告の代理人である仁井は被告らの債務を免除したのである。

三、証拠〈省略〉

理由

一、昭和三九年五月二五日原告と訴外阿曽恒男との間で、原告主張の如き内容の手形取引契約が締結されたこと、原告が阿曽から拒絶証書作成義務免除のうえ、別紙手形目録記載の約束手形一三通の裏書譲渡を受け、これらの手形を各満期に支払場所へ呈示したが、いずれも支払拒絶をうけたことは当事者間に争いがない。

二、原告は被告ら両名が阿曽の右債務について連帯保証をしたと主張し、被告らはこれを否認して争うので考えてみる。

(一)  原告と阿曽との間の前記手形取引約定を記載した書面である甲第一四号証(手形取引約定書)には主債務者たる阿曽恒男の記名捺印(その成立については当事者間に争いがない)のほか連帯保証人として被告両名の各氏名がいずれも横書で記載されかつその右側にいずれも円内に各被告の氏名を刻した印影が顕出されていることが認められるところ、右各印影がそれぞれ被告らの印章により顕出されたものであることは当事者間に争いがない。

そうしてみると反証のない限り、被告らの右各捺印は被告らの意思に基いてなされたものと推定するのが相当であり、従ってまた右甲第一四号証の被告ら名義関係部分全体も真正に成立したものと推定すべきである。

(二)  ところでこの点に関し、被告らは、阿曽が原告と当座勘定取引契約を結ぶについて保証人になって貰いたいと阿曽から懇請されたのでこれを承諾して同人に印章を渡したところ同人が勝手に前記甲第一四号証に記名捺印したものであって、被告らとしては手形取引について保証することを承諾した事実はないと主張し、被告ら両名の各本人尋問の結果は右主張に符合する。

しかして阿曽恒男も証人として、同人は原告から交付された手形取引約定書用紙の内容をよく読まず、それは当座勘定取引を始めるについての約定書でありかつそれに保証人が必要であると信じてその旨被告らに依頼したところ、承諾を得て印章の交付を受けたのでこれを使用し、右約定書用紙の所定欄に被告らの記名捺印をしたと証言する。

(三)  そこで右各供述の信用性を検討するのに、そのうち、被告らの各氏名の記載と印章の押捺という事実行為が阿曽によってなされたとする点はこれを否定すべき資料はない。

次に阿曽恒男名義関係部分につき成立に争いのない甲第一四号証により甲第一八号証中阿曽恒男名下の印影が同人の印章により顕出されたことが認められ、よって全部につき真正に成立したものと推定すべき甲第一八号証、成立に争いのない甲第一七号証の各記載に証人竹中利行、同阿曽恒男の各証言、被告松本粂蔵(第一、二回)、同高木武次郎の各尋問の結果〈省略〉によれば、阿曽恒男が代表者である訴外株式会社共栄工業所は昭和三八年七月頃以来原告と当座勘定取引契約ならびに手形取引契約を結んでおり、右手形取引契約については被告高木が連帯保証人になっていたこと(被告高木はその本人尋問においてこの点についても否定的な供述をしているが、右手形取引の約定書である甲第一七号証における連帯保証人としての同被告名義関係部分の成立は認めて争わない)、ところが、昭和三九年四月頃、同会社振出の小切手が不渡になったため、同会社は銀行取引停止処分を受けたので、その代表者である阿曽が原告に懇請し、阿曽の個人名義で新規に当座勘定取引契約ならびに手形取引契約を結ぶようになったこと、当座勘定取引についてはその約定書が昭和三九年五月二〇日付で原告へ差入れられ、これには何ら保証人は要求されていないこと、本件手形取引約定書(甲第一四号証)は阿曽が原告銀行係員からその用紙を交付され、保証人二名を要求されたので同月二五日、かねて知己の被告両名の各家へ順次持参して、それぞれの実印と印鑑証明書の交付を受け、その場で右約定書の連帯保証人欄に被告らの各氏名を記載し、印章を押捺した上原告銀行向島支店へ持参して係員に交付したこと、甲第一四号証には冒頭に、契約条項とは一段区別して「手形取引約定書」なる表題がみやすく印刷されていること等の事実が認められ、被告高木の尋問の結果中、右認定に反する部分は採用しない。

右の事実に照すと、阿曽において被告ら方へ持参した甲第一四号証の用紙が当座勘定取引約定書であると誤信し、かつこれに保証人が必要であると信じて被告らにその旨依頼したとする阿曽証人の前記証言の到底信用し難いこと多言を要しないし、従ってまた被告らが阿曽から右の如き趣旨の依頼を受けたと供述する点も頗る疑問といわねばならない。

(四)  のみならず、およそ銀行へ差し入れる契約書類に保証人として実印を押捺し、印鑑証明書を交付するについては何人も慎重な態度をとるのが通常であるから、被告らが右印章等の用途を確認することなく、慢然阿曽の言を信じて求められるままに実印の使用を許し、印鑑証明書を交付したとは容易に考えられない。とりわけ被告高木は、前記のとおり、さきに株式会社共栄工業所の手形取引上の債務について連帯保証をしていたのであるから、同会社の銀行取引が解約され、新規に阿曽個人名義で取引を始める(少なくとも会社名義の従前の当座勘定取引が解約され、新規に阿曽個人名義でこれを始めるに至った旨阿曽から説明を受けたことは被告高木の認めるところである)について、同人が被告高木に依頼しようとする保証の趣旨が従前のそれと同一であることを了知しなかった筈はないと考えられる。

(五) 右の次第で阿曽証人および被告らの前記各供述はいずれも信用できないから、甲第一四号証が真正に成立したとの前記推定を覆えす反証とならない。

(六) 以上要するに阿曽は被告らの意思に基き、右甲第一四号証の被告らの署名捺印を代行したのであり、また前記のとおり、同号証を原告銀行向島支店へ持参して係員に交付したのも阿曽がこれをなしたのであるが、これももとより被告らの意思に基くものと推定すべきであるから、これによって被告らと原告との間で原告主張の連帯保証契約が有効に締結されたものというべきである。

三、そこですすんで被告らの仮定抗弁について考えてみる。〈省略〉被告らの抗弁は採用できない。

四、よって被告らは阿曽の連帯保証人として、各自、原告に対し、別紙手形目録記載の約束手形一三通の手形金合計金二、八三四、〇〇〇円および各手形金に対する各呈示日(満期)の翌日から完済まで特約利率たる日歩金五銭の割合の遅延損害金の支払をなすべき義務がある。〈以下省略〉。

〈以下省略〉

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